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プロローグ(其の壱) サルガッソー村に伝わる伝承(抜粋)
昔々、まだ地球が「ウミ」というものに覆われていた頃のことじゃ。
革命暦17802年、わしらの祖先は画期的なエネルギー生産方法を編み出した。
それはどういう原理なのかは判らぬが、「カイスイ」をわずかなコストで電解し、それを基として莫大なエネルギーを生み出せるという画期的な方法じゃった。これによって、祖先は「ついにわしらはエネルギー資源枯渇を元凶とする紛争から解放された」「カイスイという無尽蔵なエネルギー資源がわしらを救ってくれる」と大歓喜したそうな。
ところが、じゃ。
その「カイスイ」の所有権を主張する企業連合体が二つ出現し、わしらの祖先はこの二大企業のどちらかの陣営に就くかの選択に迫られたそうじゃよ。
その二つの企業とは、農業・養蜂・養蚕・林業その他諸々の第一次産業を一手に引き受ける「ミョック財閥」、そして鉱工業・エネルギー産業・電力事業その他第二次産業に手広く関与する「コレチゲ・コングロマリット」じゃ。
どちらも「わしらこそがより多くのカイスイを必要とする。よってカイスイの恩恵を被るべきはミョック財閥をおいて他はない」「わしらこそがより多くのカイスイを必要とする。じゃからカイスイはわしらコレチゲ・コングロマリットが所有すべきじゃ」と言い張って、一歩も譲らぬ。
そうこうする裡に、ミョックもコレチゲも傭兵を雇い入れて、テロやら紛争やらを互いの陣営に対しておっぱじめおった。あの当時はもう、大量破壊兵器は製造されてはおらず、どちらの陣営も原始的なダイナマイトやら銃やら火炎放射器やら、とにかく何万年も前から一歩も進歩しておらぬ武器で、わしらの祖先は白兵戦をしておったそうじゃ。
「争いから解放される」と喜んだのも束の間、やはり不毛な争いを続けておったわしらの祖先を見兼ねたのは「惑星安全評議会」という組織じゃった。
その組織がどのようなものかは、わしら村の長老連中でも判らぬ。じゃが、「惑星安全評議会」という組織は、すさまじい科学力を有しておるらしい。
「惑星安全評議会」は、わしらの祖先たちにこう伝えた、とされておる。
「やはり我々の育成計画は失敗であった。際限のない紛争を続けるお前たちから、争いの元凶たる『ウミ』を取り上げる。お前たちは今度こそ平和に生きるがよい」
そして連中は「量子テレポート」と呼ばれる革命暦15000年頃に廃れた技術を以てして、地球から「ウミ」を消してしまい、こうしてわしらは乾いた世界で生きることとなったのじゃ。
わしらの村は、ミョック財閥の傘下に入っておる。わしらがこうして生きておられるのも、ミョック財閥総裁・サンチュ様のお陰じゃが、あの御方もおかしな方じゃな。「惑星安全評議会」の言うには「ミョックとコレチゲは共存すべし」とのことじゃが、サンチュ様は頑なに「我々にとり目の上のタンコブであるコレチゲ・コングロマリットを叩き潰すべし!」と主張してばかりおるのじゃからのう...
(サルガッソー村最長老・クンデ翁へのインタビューより)
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