参章 雪童子と友人

76/128
1284人が本棚に入れています
本棚に追加
/506ページ
 ふたりは小さな家を借りた。何もない質素な家だったが、雪童子にとっては何もかもが新鮮だった。ひとつだけの布団も朽ちた畳も、気にならなかった。六花と過ごす時間がそれほど楽しかったのだ。  「人里で暮らすとなると、お前にも名前がいるね」  文机に向かっていた六花がふとそう呟いた。皿を片していた雪童子が瞳を輝かせて振り返る。  「名前? 兄やみたいな!?」  「ああ、そうだよ」  微笑む六花に駆け寄って、その膝の上に座る。雪童子を抱きかかえるように腕を回して筆をとると、新しい半紙を用意した。  「お前はどんな名前がよいかな」  「兄やと同じ名前がいい!」  「私と同じ名前は駄目だよ。人から“六花”と呼ばれた時に、お前も私も振り返ってしまうじゃないか」  六花は頬を緩めながら雪童子の頭を撫でる。  「そうだね。私と同じがいいならば、雪に関わる名にしようか。六花は雪の別称なんだよ」  六花は半紙の上に文字を並べた。  深雪、斑、銀雪、三白、不香、六出────六花が声に出しながら書いていくのを、雪童子はじっと見つめた。
/506ページ

最初のコメントを投稿しよう!