参章 雪童子と友人

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 のっそりと布団から起き上がって、こめかみを押さえた。薄暗い部屋にわずかな日差しが差し込んでいる。畳の上では家鳴たちが眠りこけており、踏まないように窓へ寄る。カーテンの隙間から顔を覗かせると、うっすらと雲がかったぱっとしない天気だった。  今日は何も夢を見なかったはずなのに目覚めが悪かった。いや、夢を見なかったかもしれない。  重い体をひきずるように制服に着替え、朝拝に向かった。  「夢を見なかったんです」  朝拝が終わった朝食の席でそう言うと、健一さんが怪訝な顔で私を見る。  「夢なんてそうしょっちゅう見るもんじゃないだろ」  「あ、違うんです。私の場合、妖の言葉に引っ張られて、妖の記憶の中に入ったりや思い出を追いかけることができて……」  「は!?」  素っ頓狂な声をあげた健一さんは飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになっていた。苦笑いで台ふきを差し出す。  「そんな力、これまでにウチの家系で使ってるやついたかよ三門!」  「いませんでしたね」  うそだろ、と健一さんは目を見開いた。
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