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「んっ」
提灯の持ち手を蛍雪に押し付けた。反射的にそれを手に取った蛍雪はまた目を瞬かせる。
「これ」
蛍雪の言葉を聞き終える前に、少年は走り去っていった。提灯と六花を交互に見比べる。月明りが良く出ている今夜は、妖であるふたりに提灯の明かりは少し眩しかった。
「蛍雪」
蛍雪の手から提灯を取り上げ、六花は中の火を吹き消した。
「蛍雪と私が人里で暮らすための、大切な約束事をしよう」
六花は蛍雪の手を引きながら歩き出した。
「約束事?」
「ああ、そうだよ。よくお聞き」
六花は歩みを止めると蛍雪の前にしゃがんだ。小さな両肩に手を乗せて目を合わせる。
────ひとつ、私たちが妖であることは誰にも喋ってはいけない。ふたつ、必要以上に人間に関わってはいけない。
素直に分かった、とにっこり笑って頷いた蛍雪は、鼻歌を歌いながら月を見上げた。六花は憂いを帯びた目で蛍雪を見つめていた。
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