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次の日の夕方に、蛍雪は少し早起きをして昨日の提灯を片手に外へ出た。烏が山に帰っていくのを眺めながら、目的もなくぶらぶらと歩く。しばらくすると、なにやら賑やかな声が耳に届いた。音を頼りに歩みを進めると昨晩六花と参詣した社が見える。声は鳥居の方からだった。
妖は表の鳥居を通ることができない。昨日六花から聞いたことを思いだし、蛍雪は鳥居の影で歩みを止め中を覗いた。
色とりどりの着物を身に着けた人間の子供たちが駆け回っている。歳の近い人間を見たのは初めてで、蛍雪は目を輝かせた。
「あれー、誰かいる」
人形を抱えた少女が鳥居の影を指さした。子どもたちは足を止めて視線を注ぐ。首を竦めた蛍雪は鳥居の影に隠れる。
「あ、俺んちの提灯!」
手に持っていた提灯を隠し忘れていた。ひとりの少年が駆け寄ってくる。
それに続いて子どもたちがわらわらと駆け寄ってきて、蛍雪は一層縮こまった。
「昨日のチビだ」
「大将、こいつと知り合いなの?」
「越してきた新入り。昨日の晩、俺がこのチビに提灯を貸してやったんだ」
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