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「────少し染みるよ」
三門さんは私の手の甲に消毒液が染みたガーゼをそっと当てた。
あれから社務所に連れてこられた私は、ふくりにひっかかれた傷をみてもらっていた。
ちりっとした痛みが走って肩を竦める。もう少し我慢してね、といつも通りの優しい声色でそう言う。
なんとなく気まずさを感じて視線を泳がせながら口を開く。
「えっと、あの。もう体の方は……」
「うん、随分回復したよ。傷は多かったけど深いものではなかったから。日頃の疲れのせいで沢山寝ちゃっただけみたい。心配かけてごめんね」
「良かった……」
うん、と微笑んだ三門さん。そしてもくもくと手を動かす。
そして器用に包帯をくるくると巻きつけながら、「健一さんから聞いたの?」と唐突に尋ねた。
何を指しているのかは聞き返すまでもない。私が口を滑らせて触れてしまった十年前のことだ。
ひとつ頷くと、「やっぱりか」と三門さんは苦笑いを浮かべる。
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