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今日は早めに自室に戻った。布団に潜り込んで何度か寝返りを打っていると、かりかりと木をひっかくような小さな音がした。
起き上がると、障子にふっくらした狐の影が映っている。
「……ふくり?」
布団から抜け出して障子を開ける。目線を落とすと、すこししょんぼりした様子のふくりがそこに立っていた。
「良かった……! ずっと心配してたんだよ、今までどこにいたの?」
ふくりの前にしゃがみ込んで顔を両手で包み込む。
ふくりは私の手の包帯を見るなり一層しょんぼりと首を下げた。
「ごめんね、麻」
「大丈夫だよ。三門さんが大袈裟に手当てしてくれたおかげで、もうすっかりいたくないの。ふくりも本気で引っ搔いたわけじゃなでしょ? それに、私が手を出したのが悪いんだから」
首に手を回してふわふわの毛並みを撫でながらきゅっと抱きしめる。ふくりが私の頬に頭を寄せた。
「お腹空いてる? 冷凍庫の奥にひとつだけ稲荷コロッケが隠してあるんだ。温めるから私の部屋で待ってて」
こくりとうなずいたふくりは尻尾を垂れ下げてのそのそと部屋の中に入った。
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