伍章 三匹の神使 中編

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 「じゃあ、ふくりが今までに一番楽しかったことは?」  「楽しかったこと、かい」  ふくりはしばらく黙り込んで何かを考えるそぶりを見せた。静かに見守っていると、おもむろに口を開いた。  「まだ、私が神使になる前の、見習いだったころかな」  「神使にもそんな期間があるの?」  「ああ、私たちももとはただの狐さ。私とみくりは北の生まれで、百歳を超えた頃にユマツヅミさまに呼ばれてこの地に来たんだ。それからもう百年くらいは見習いで、当時の神主からいろいろ教わったもんだよ」  へえ、と目を丸くする。なんとなく、みくりとふくりは生まれてからずっと神使なのかと思っていた。  それにしても、神主がユマツヅミさまによって選ばれるということは聞いていたけれど、神使も同じように突然選ばれるんだ。  「その当時の神主は高齢で、後継が一向に選ばれる気配がなかったから禰宜(ねぎ)が宛がわれていたんだ。その禰宜がとても私を可愛がってくれてね。神使として落ちこぼれだった私に良く金平糖をくれて、一緒に頑張ろうと励ましてくれたんだ」
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