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素敵な人だったんだね、と相槌を打つとふくりは優しい顔をして頷いた。
「あの頃が一番楽しかったのかもしれないね。禰宜がいて、先代の神主がいて。早食い競争とか、遠吠え競争とかもしたよ。まだ若かったからねえ、いつもみくりたちと競い合って喧嘩していたんだ」
そうなんだ、と目を細める。
今はみくりが一方的に張り合ってふくりが渋々付き合うような感じだけれど、昔はふたりとも同じように競い合っていたんだ。
楽しそうに昔話をするふくりの横顔を見ていると、ふとひとつ胸に引っかかるものがあった。
「ふくり、今さっき“みくりたち”って言ったよね? 神使はふくりとみくりだけなのに。他にも誰かいたの?」
とたん、ふくりがピタリと動きを止めた。重い沈黙が流れる。
「ふくり……?」
「……いや、何でもないよ。麻の言う通り、その時の神使は三匹だ。みくりと私、それからおとら狐の仁吉だ」
ふくりが険しい顔でその名を呟く。ばくん、と鼓動が波打った。
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