伍章 三匹の神使 中編

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 嘉助が社に来て三ヶ月ほど経ったある夏の日。  伊三郎のもとで神使としての学びを受ける日で、今日は狐火や変化を使った手合わせだった。  「ふむ、今日はここまでにしよう。仁吉とみくりは部屋に戻って休みなさい。ふくり、来なさい」  みくりと仁吉が部屋を去る直前にちらりとこちらを窺った。その視線が耐えがたくて、ふくりは俯いたまま伊三郎のもとに歩み寄った。  「ふくり、そう俯くな。なに、叱りつけようとして呼んだわけではないのだよ」  伊三郎はふくりの前に膝を付いて、ふくりのその小さな頭に皺だらけの手を乗せた。  「お前はあの二匹に比べて気が優しすぎるところがある。ひとの気持ちに敏く、そのせいもあって争いや力を好まない所があることも良く分かっているよ。でも、優しさだけでは神使は務まらない。妖同士の争いが起きたとき、神主の傍に立ち、凛として諫めることができる力としての“強さ”も必要だ」
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