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傍に転がっていた桶を取り上げた嘉助は、手水舎の水を救い上げると、「そいや!」という掛け声とともに頭から水を被った。
しぶきが顔に飛んできて、首をぶるりと振る。
「よし。大丈夫だ、立ち直ったぞ」
「……そんなに簡単にかい?」
「いいや、実はまだ少し落ち込んでいるが言霊の力だよ」
嘉助ははにかむように笑って、桶を軽く持ち上げると「ふくりもどうだい?」と尋ねた。思わず小さく吹き出して「遠慮しておくよ」と首を振る。
嘉助は片膝をついて屈むと、懐から巾着を取り出す。掌に何かを取り出し、ふくりに差し出した。金平糖だった。
「蹴飛ばしたお詫びだ。お互いに、良い禰宜と神使になれるように励もうな」
ふくりの頭にぽんと手を乗せた嘉助は、自分の首にかけていた白い手ぬぐいをふくりに被せた。
「顔を拭いたら戻っておいで。一緒に稽古をしよう」
俯きがちに頷いたふくりに、嘉助は満足げに笑った。
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