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「ああ、これ?」
仁吉はちらりと視線を落としてから、何かを考えるようにしばらく黙り込んだ。
そしてゆっくりと顔をあげると、冷淡な声で「そいつの」と顎で嘉助を指した。
……何を、言っているんだ?
どうして仁吉が嘉助の血を被っている。なぜそんなことになった。仁吉と嘉助が争ったのか。争った結果、嘉助が血まみれで動かなくなってしまったのか?
「────おまえが、嘉助を……」
「あー、うん。殺してもうたわ」
その瞬間、今までに感じたことのない力が腹の底から湧きあがった。目の前が真っ黒になり、どす黒い感情が胸を支配する。気が付けば地を蹴り仁吉に飛び掛かって、その首を食いちぎる勢いで噛みついていた。
「……っ、そんな怪力どこに隠し持っててん阿保が! はなせやクソガキっ」
激しく抵抗した仁吉はふくりを蹴り飛ばして振り払った。背中を打ち付けたふくりは悲鳴を上げて土の上を転がる。
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