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「ふくり、仁吉っ! やめろふたりともっ」
飛び出してきたみくりがふくりの上に覆いかぶさった。どれだけ暴れてもびくりともしない。それもそうだった、手合わせでこのふたりには一度も勝ったことがなかったのだから。
ボロボロと涙が零れた。声にならない悲鳴を上げる。息ができずあえぐように嘉助の名を呼びながら必死に手を伸ばした。
なぜ、どうして。どうしてこうなってしまった。数時間前まではくだらない話をしていたじゃないか。
「はなせっ、はなせみくり!」
嘉助のもとに行ってやらないと。怪我をしているから手当てをしないと。いつまでもあんなところに寝転がっていると、風邪を引いてしまうじゃないか。
みくりが何かを叫びながら自分の額をふくりの頭にぶつけた。目の奥で火花が散って、ふっと意識が遠のいていく。
いやだ、嘉助。お願いだよ、目を開けておくれ。
薄れゆく意識の中で嘉助に手を伸ばす。その手は届くことなく宙を掴み力なく落ちた。
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