1308人が本棚に入れています
本棚に追加
『またこんなところに居たのかい、ふくり』
差し出す手は誰よりも頼もしくて
『ふくりは偉いなあ。どんなに叱られても、泣き言ひとつ漏らさないなんて』
撫でてくれる手は何よりも温かくて
『ふくり、おいで。金平糖を一緒に食べよう』
とても優しい人だった。
大好きな人だった。兄弟みたいだとからかわれるのが嬉しくて、「やめておくれよ」と顔を顰めながら、本当はとても誇らしかった。
自分と同じ、秀でた才能もない凡人でも、努力を惜しまず前を向き続ける人だった。だから憧れ、尊敬した。
それなのに。
嘉助の笑顔が白い靄に包まれて遠くなっていく。走っても走っても追いつけない。どんどん遠くなっていく。
嘉助、お願いだよ。待って、置いていかないで。
最初のコメントを投稿しよう!