伍章 三匹の神使 中編

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 『またこんなところに居たのかい、ふくり』  差し出す手は誰よりも頼もしくて  『ふくりは偉いなあ。どんなに叱られても、泣き言ひとつ漏らさないなんて』  撫でてくれる手は何よりも温かくて  『ふくり、おいで。金平糖を一緒に食べよう』  とても優しい人だった。  大好きな人だった。兄弟みたいだとからかわれるのが嬉しくて、「やめておくれよ」と顔を顰めながら、本当はとても誇らしかった。  自分と同じ、秀でた才能もない凡人でも、努力を惜しまず前を向き続ける人だった。だから憧れ、尊敬した。  それなのに。  嘉助の笑顔が白い靄に包まれて遠くなっていく。走っても走っても追いつけない。どんどん遠くなっていく。  嘉助、お願いだよ。待って、置いていかないで。
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