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「────きす、け」
涙が頬を伝う感覚で目が覚めた。気が付けば畳の上に寝転がっていた。首を持ち上げるとかけられていた布団がぱさりと落ちる。自宅のどこかの部屋にいた。
部屋を出る気にもなれず立ち上がるのも億劫だった。布団の中に潜り込んで、体に顔を埋めた。何も考えることができなかった。ただとても疲れていた。
障子の外から自分の名前を呼ぶ声で目が覚めたのは、一夜明けた朝だった。
「みくり、かい」
「……目が覚めたか」
みくりは部屋の中へ入ろうとしなかった。みくりはしばらく黙り込んで、少しためらうように口を開いた。
「────嘉助が死んだ」
同じ里に生まれた兄弟で、昔から口下手な狐であることを知っている。考えても、どう言えば良いのか分からなかったのだろう。
「それから、禰宜を手にかけた罪で仁吉が追放になった。さっき、社を出た」
「つい、ほう……?」
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