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勢いよく立ち上がり外に飛び出た。みくりが目を見開いて身を引く。気にする余裕もなく、ふくりは駆け出した。
石階段を駆け下り、鎮守の森を抜けた。あぜ道を駆け抜ける。
遠くに黄土色の背中を見つける。
「仁吉ッ、仁吉!」
叫びながら追いかけた。仁吉は歩みを止める。
「なぜっ……なぜ殺した!」
追いついた瞬間そう叫んだ。仁吉はピクリとも動かない。
「そんなん、気に入らんからに決まっとるやろ。それ以外に何があるん」
「嘘だ! お前はそんな理由で人を殺めたりしない、そうだろう? 私たちは神使なんだよ」
「神使やから人を殺めたりせん、なんて誰が決めた? じゃあ、今頃あの禰宜は気分よく金平糖でも食うとったやろ」
「ちがうんだ、そんな話をしているんじゃないんだ! あの夜、何があったのか教えておくれ。本殿が崩れ、社頭もえぐれて、須久木にまで大きな傷があった。それなのに、私は呑気に眠っていたなんておかしいだろう? みくりも伊三郎も、なにも話してくれない」
仁吉の肩がわずかに揺れた。
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