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「お前たちは何を隠しているんだい! 私はそんなに情けないか、大事なことを話せないほど信用がないのかい!」
「なに自惚れてんの、阿保らし」
一度も敵わない相手だった。自分よりも百は年上で、生まれたときから妖狐だったから知識も経験も豊富だった。
そんな仁吉をライバルだとは思うことはあれども、嫌ったことなんて一度もなかった。同じ志を持った仲間だと思っていた。
「仁吉っ、このままだと私はお前を憎み続けなければならないよっ」
仁吉は返事もせずにその場から駆け出した。
「仁吉ッ────」
悲しくて悔しくて情けなくて、何よりも無力で愚かな自分に腹が立った。情けなくて恥ずかしくて、泣き叫びたいのに声が出なかった。
どうしていつもこうなんだ。なんのための神使なんだ。神主を助けるための存在じゃなかったのか。そのために、歯を食いしばって学んできたんじゃないのか。
その場に崩れ落ちて土を握りしめた。
苦しい、息ができない。声が出ない。
唸り声をあげて空を仰いだ。目の縁から零れる涙はとても熱かった。
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