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仁吉は立ち上がると、屋根からひらりと飛び降りて私の傍に歩み寄る。
「対価は?」
「対価……?」
「いやいや、慈善事業じゃないねんから」
でも、私に何か支払えるようなものはない。仁吉のように情報を持っているわけでもないし、できることなんてごくわずかだ。
「名前」
仁吉が口を開く。
「あんたの名前と交換や」
私の、名前。
以前、以津真天という鳥の妖のおじいさんが前に私に教えてくれた。
妖に簡単に名前を教えてはいけない。なぜなら、名前はその人自身を縛る短い呪いだからだ。力を持つ人や妖に自分の名前を教えるということは、とても危険な行為なのだと。
仁吉は神使として修業を積んでいた期間もある。きっと、それなりには力を持っている強い妖だ。しかし、この地を追放された妖だ。結守神社の先代の禰宜を殺めたという過去がある。
名前を教えてしまってもいいのだろうか。
本当に彼を信じてもいいの……?
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