伍章 三匹の神使 中編

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 仁吉は立ち上がると、屋根からひらりと飛び降りて私の傍に歩み寄る。  「対価は?」  「対価……?」  「いやいや、慈善事業じゃないねんから」  でも、私に何か支払えるようなものはない。仁吉のように情報を持っているわけでもないし、できることなんてごくわずかだ。  「名前」  仁吉が口を開く。  「あんたの名前と交換や」  私の、名前。  以前、以津真天という鳥の妖のおじいさんが前に私に教えてくれた。  妖に簡単に名前を教えてはいけない。なぜなら、名前はその人自身を縛る短い(まじな)いだからだ。力を持つ人や妖に自分の名前を教えるということは、とても危険な行為なのだと。  仁吉は神使として修業を積んでいた期間もある。きっと、それなりには力を持っている強い妖だ。しかし、この地を追放された妖だ。結守神社の先代の禰宜を殺めたという過去がある。  名前を教えてしまってもいいのだろうか。  本当に彼を信じてもいいの……?
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