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三年近くそれが続いて、杞憂だったかと思い始めたある秋の日にそれは起きた。
その夜は自分が傍にいて、先代は行燈の傍で読み物をしていた。
「伊三郎、そろそろ休みや。寝不足でぽっくり逝かれたら困るのはこっちやで」
「ここを読んだらもう眠るよ。休みたなら先に休みなさい」
先ほどからその繰り返しで、仁吉はひとつ欠伸を零す。
眠いわけではないが、気の休まる時間が少なく疲れていたらしい。体を丸めて顔を埋めると、少しうつらうつらしてしまった。
丑三つ刻を少し過ぎた頃に伊三郎が布団にもぐる気配がして、ふと目が覚める。歩み寄ると、寝息を立ててぐっすり眠っていた。
ひとつ溜息を零して枕元に蹲る。
長い夜になりそうだ、ともうひとつ欠伸をしたその時、
全身を駆け巡るぞわりとした感覚に飛び上がった。続いて身を引き千切られるような痛みが胸の中に広がり、思わずうめき声をあげた。あまりの苦しさに涙が零れる。
『助けて、伊三郎さま。助けて下さい、神使さま』
頭の奥に直接響く誰かの声。
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