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壱章 付喪神の子守
風が少しずつ春の匂いをのせはじめた三月中旬。大勢の人でごった返す掲示板の前で、私は背伸びをしながらそれを見上げていた。周りからは歓喜の声やすすり泣く声など、各々に掲示板に張り出された結果に一喜一憂している。焦る気持ちを抱きながらぴょんぴょんと飛び跳ねるも、人の頭のせいでやはり何も見えなかった。
「麻、見つけた?」
隣りに立っている眼鏡をかけた女の子が尋ねてくる。マフラーに顔を埋めた彼女はうんざりした顔で溜息を吐いた。
「まだ。人が多くて見えないよ」
「人多いね、出直してくる?」
うーん、と唸り声をあげながらもう一度背伸びをして、掲示板を見上げる。「そうだね」と言おうとしたそのとき、私と彼女は同時に「あっ」と声をあげてお互いの顔を見合わせた。
「あったーっ」
「詩子も⁉ 私もあったよ!」
手を取り合って喜びを分かち合い、まだ人の多い掲示板前から離れる。
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