No. 2 -水底に沈む-

10/10
前へ
/10ページ
次へ
「まだくっつけたままなのかよ。本当に汚い奴だな、お前。」  僕はそう独り言を呟きながら、ぼんやりと糞を引き連れながら泳ぐ金魚を見つめる。水槽の明かりに照らされ、フィルターの機械音と隣から奏でられる嗚咽をBGMに、金魚は悠然と恥態を晒す。 「あっ。」  朝から今に至るまでずっと引っ付いていた糞が、ようやくぷつりと引き離される。細長いそれはしばらくの間ふよふよと水中を漂うと、やがて底に落ちる。水の動きにゆらゆらと揺れるも終いには動かなくなり、ただの汚れカスと化す。 「汚いなぁ。本当に、ただただ汚いな…」  僕は洗面台に向かい、棚から掃除用のポンプとバケツを取り出す。部屋に戻った僕は水槽にポンプを突っ込み、シュコシュコと鳴らして水を吸い上げる。  糞はほんの数秒で取り出されたが、僕はそのまま水を吸い上げ続ける。やがて水槽の中の水は空っぽになり、中で糞の主が苦しそうに跳ね回っている。僕はそれを助けることもせず、ただただ呆然と見つめ続ける。  金魚は苦しそうにピチピチと跳ねるが、やがて動かなくなり、これといった悲鳴も上げずにそのまま息耐えた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加