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北風と太陽
「なあ太陽、勝負をしないか。」
朗らかな天気のある日、意地の悪そうな笑みを浮かべながら北風が言った。
「また勝負かい。僕は嫌だよ。」
太陽は迷惑そうに断った。無理もない。北風は、なにかというと勝負勝負と太陽にふっかけてくるのだ。こういうときは、さっさと離れてしまうに限る。太陽はそっとその場を後にした。
「そろそろ季節の交代の時期だが、君が勝負に勝ったら、来期も君の担当でいいよ。」
背中に聞こえる北風の言葉に、太陽は動きを止めた。
「君は僕が担当する季節が気に入らないんだろう?人々を必要以上に凍えさせるとかなんとかって理由で。それを今回は無しにしていいと言っているんだ。」
北風の追い討ちに、太陽は屈した。太陽は、北風が担当する冬という季節が嫌いでならなかった。あまりの寒さに体をこわばらせ、歯を鳴らして震える人々が不憫でならなかったのだ。
「君が勝ったらどうするんだい。」
太陽はそれだけが気がかりだった。
「僕が勝ったら、来期はいつもより少しだけ寒くするよ。そうだ。君が勝負を受けなくてもそうすることにしよう。」
北風は口元を緩めてにやけた。太陽に断るという選択肢は残されていなかった。
「どういう勝負をしようというんだい。」
「あそこに、旅人がいるだろう。あいつの服を脱がせた方が勝ちというのでどうだい。君に有利な勝負だと思うが。」
これを聞いて太陽は首を縦に振った。北風の言うように、太陽は負ける気がしなかった。
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