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満月に苦悩するもの
それから満月になるたび、俺はカラスに変身し、学校近くの神社に飛んでいくようになった。
月夜の神社で立原琴音と待ち合わせをして(正確には先に来たほうが待ってるだけだけど)彼女が来ると、俺はその華奢な肩にとまる。爪で肩を傷つけないように、そっと。俺が肩に来ると、立原は幸せそうに微笑む。その姿がたまらなく愛おしかった。
立原はカラスである俺を肩に乗せたまま、いろんな話を聞かせてくれた。
口下手で話すことが苦手で、なかなか友だちができないということ、体が弱くて学校を休みがちだということ。星を見るのが好きで、見晴らしの良いこの神社にたまに来るということ。
カラスが話し相手だと思うと緊張しないのか、自嘲的な話も気楽に話してくれるのが救いだった。にこにこと朗らかな顔で話す立原琴音は、学校にぽつんといる彼女とは全く違っていた。この笑顔を学校でも見せてくれていたら、友だちもできると思うんだけどな。ああ、でも男のファンができるのは嫌かも。
満月のデートを重ねながら、立原との交流を深めていった。カラスの体越しに感じる立原の体温や息遣い。立原と昼間も話したくなるのは、自然な流れのように思えた。
相変わらず学校で立原は、ぽつんと過ごしていることが多い。相手が人間だと思うと、途端に緊張するというのは彼女に聞かされているので、よく知っている。しかしそんな彼女に、どんなふうに声をかけたらいいんだろう?
「やぁ、俺はいつも神社で会ってるカラスだよ。昼間は人間なんだ」
「立原さん、俺は神社で会うカラスです、いつも優しくしてくれてありがとう」
「秘密にしてたけど、俺は満月の夜だけカラスに変身するんだ」
…………ダメだ、どれも怪しすぎる。
そもそもカラスに変身する男子高生なんて、漫画の中ですら聞いたことがない。いきなりそんな話を立原にしたら、ドン引きされることは間違いない。
「あ~なんでカラスなんだよ。美少女とオオカミなら様になるのに、美少女とカラスなんて怪しいだけじゃないか」
昼間の立原琴音と仲良くなるきっかけを掴めないまま、月日だけが過ぎていった。
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