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満月の夜に抗うもの
月が眩い輝く満月の夜がやってきた。俺はすっかり慣れた手つきでカラスに変身し、神社にいる立原琴音に会いにいった。いつも一人でいる彼女の側に、数人の男たちが取り囲んでいるのが見えた。
「ねぇねぇ、彼女。オレたちと遊ぼうよ~」
ナンパかよ。神聖な神社でナンパしてんじゃねぇよ。
呆れるぐらい凡庸な台詞でナンパする男たちを心底軽蔑しながら、俺は立原の肩に降り立った。
「カラスさん、良かった!」
立原は泣いていた。よほど心細かったのだろう。ごめんな、こんな夜にひとりにして。もう大丈夫だから。
「うぉ、なんだ、カラスかよ。驚かせるんじゃねぇよ」
「カラスなんざ、お呼びじゃねぇよ。あっち行けよ!」
「待ち合わせしてるって、まさかこのカラスじゃないよね~オレたちと遊んだほうが楽しいよ~」
男たちは下卑た笑いでにじり寄ってくる。くっそ、カラスだと思ってなめてやがるな。立原に近づくなっ!
「カァァァ~~!!!」
俺は精一杯の雄たけびをあげながら、男たちに襲い掛かった。鋭いくちばしや爪で容赦なく男たちを攻撃する。
「うわっ、イテテテ。なにすんだ、このくそカラスっ!」
突然のカラスの攻撃に、男たちが逃げまとう。
カラスだからってなめるんじゃねぇぞ。
無様な様子で逃げる男たちを少し愉快に思いながら、さらに攻撃しようと黒い羽を大きく羽ばたかせた。その一瞬、開いた羽をひとりの男に鷲掴みにされ、あっと思ったときには地面に叩きつけられた。
「このやろ、カラスのくせに調子にのるな!」
数人の男たちに乱暴に踏みつけられる。体中を強い力で地に押し付けられる強さは、息する間もないほどの衝撃で、俺の意識は少しずつ遠のいていった。
「カラスさん、カラスさん!」
立原の悲鳴が聞こえる。早く助けてやらないと、おとなしい立原が野蛮な男たちに何をされるのか想像するだけで恐ろしい。
くっそ、何で満月は俺をカラスに変身させるんだ。何の意味もねぇよ。立原ひとりを守ってやることもできない。
オオカミに変身できたら、あいつらの喉仏に噛み付いてやるのに。カラスじゃあ、突くことしかできやしない。
「カラスさん、死んだらダメ! ずっと私の友だちでいてくれるんでしょ?」
立原の声が俺の体に力を与えた。ボロボロになったカラスの足で懸命に立ち上がる。
(立原を守るんだ……! カラスの意地をみせてやる!)
そう思った時だった。満月の光が俺の体を再び黄金色の光で包み込んだ。初めて変身したあの夜のように。
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