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満月の夜に変身するもの
黄金色の光は俺の体を包み込み、再び体を造り変えていくのを感じながら、俺は立原に向かって黒い翼を強く羽ばたかせた。
(立原、今行くぞ……!)
黒い翼はみるみる大きくなっていき、人間すらも覆い尽くすほどの大きさになっていく。今にも折れそうなほどの痛みを抱える足を支えるように、もう一本の足が生えてくる。
3本足の大カラスとなった俺は、立原の腕を掴む男たちに飛びかかっていった。
(立原を守るんだ!)
その思いだけが俺の全てだった。大きな黒い翼は、これまでとは比べものにならないほどの強い風を引き起こす。
「うわぁぁ、カラスの化け物だ!」
「助けてくれぇぇ!」
男たちは突如現れた大カラスに仰天したようで、風で少し脅しただけで散り散りに逃げていった。
ふん、ざまぁみやがれ! カラスをなめんなよっ!!
立原は無事だろうか? 慌てて立原を探すと彼女はすぐ近くに呆然と立っていた。よかった、無事だった。
「3本足の大カラス……八咫烏! あなたの正体は八咫烏だったのね!」
んっ? 『やたからす』ってなんだ?
聞いたことないぞ。
「ありがとう、私を守ってくれて」
いいんだ、立原が無事なら。
涙ぐみながら嬉しそうに微笑む立原を、黒い翼でそっと包み込んだ。立原も俺の思いに応えるように、抱きついてきた。
「温かい……あなたの体は温かいわ」
立原の体も温かいよ。そう伝えたかった。ああ、人間の姿で立原を抱き締めたかったよ。
そう思った時、俺の体は再び光に包まれいく。翼を見ると、人間の俺の手が見え隠れする。
え、今変身とけるの? ってか、今人間に戻ったら俺、真っ裸、すっぽんぽん、なんですけどっ!?
今はヤバい。変身とけないで!
姿が変わりそうな俺に驚いたのか、立原は飛び離れて様子を見守っている。
「カラスさん、あなたひょっとして……?」
立原の言葉を待たず、俺は黒い翼を羽ばたかせると、夜空に向かって飛び上がった。
「待って!」
ごめん、立原。またな!
俺は変身がとけそうな体を必死に抑えながら、月夜を飛び、どうにか自室に飛び込んだのだった。
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