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サイベルは口を閉ざし、黙ってうつむいた。
歓声と拍手が鳴り響いている。
「僕は……」
賑やかな店内で、サイベルは静かに、しかしはっきり聞こえる声で言った。
「カラス仮面は、今日をもって、この街から消えます。――僕の夢は、みなさんに託しました」
サイベルは顔を上げ、目元を拭うと、ダグラスとワーグにくるりと背を向ける。
「行こう」
シルヴェスに声を掛け、彼は真っ直ぐ出口へと向かった。
*
四人が玄関から外に出て、木々に囲まれた薄暗い庭に戻ると、空には満天の星々が新年を祝福するかのように輝いていた。
「もう、いいのかい?」
ロウザが手に白い息を吹きかけながら尋ねる。サイベルは「はい」と答え、清々しい表情で天を仰いだ。
「この街に希望が残されていることが分かっただけで充分です。僕の計画は、もう必要ありませんね」
サイベルはシルヴェスに向き直って、寂しげな笑みを浮かべた。
「ありがとう。シルヴェスちゃんに出会えて、本当に良かった。これで僕も心置きなくお縄を頂戴することができるよ」
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