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その日の夕食は品数こそ少なかったが、もの凄く美味かった。料理を担当した隊員に聞いたら、本当にランバートが指示を出し、全ての味付けをみてくれたらしい。手際がよくて、しかも味を直したりもして、本当に大貴族の子息なのかと疑う人もいたらしい。
そしてコンラッドも凄く上手で、元はレストランで働いていたらしかった。
夜になって、ジェイソンは部屋で見張りの時間まで仮眠を取ることにした。建物の警備は普段、騎兵府は行わない。城の警備を行う近衛府が持ち回りで宿舎もしてくれているのだが……第一、これだけ実戦経験の豊富な軍の宿舎に殴り込みを掛ける奴もそうはいないものだ。
なので、夜の警備は初めての経験。ジェイソンの担当は明け方のほうで、今から寝れば四時間以上寝られる。
興奮状態で疲れている感じはあまりなかったが、ベッドに横になると疲れていたんだと気づく重みがある。
体を休める有り難さを実感していると、そこに同室のアーリンが戻ってきた。
「アーリン、どこ行ってたんだ?」
「っ!」
食事の時にはいたし、風呂の時にも今日はいた。けれどその後姿が見えなくなっていた。
アーリンは暗がりを選んでいるみたいで、顔とかは見えない。けれど微かに土の臭いがする気がする。外にいたのだろうか。
「アーリン?」
「なんでもない。寝てろよ」
「ん……」
正直横になって暖まると眠りがきて、瞼が落ちそうになっている。うつらうつらしているジェイソンに、アーリンは珍しく穏やかな声で言ってくれた。それが少し嬉しくて、ジェイソンは寝ぼけながらにへらと笑った。
「なんで笑うんだ」
「だって、アーリン俺の事嫌いだと思ってたからさぁ」
「はぁ?」
やや素っ頓狂な声。そんな声も初めて聞いたように思う。いつもは避けられて、邪険にされるから。
「俺はね、アーリンとも仲良くなりたい。だって、一緒に剣を下賜されたんだよ? しかも同室だしさ」
「そんなの……」
「どうして? 俺は沢山仲間が増えるの、凄く嬉しいのに。アーリンは違うの?」
喋ることで少しだけ覚醒した意識で、ジェイソンは問いかけた。アーリンは相変わらず暗がりの中、どんな顔をしているのかは分からないままだ。
けれど息づかいが、震えているように思った。
「お前は何も知らないから、そんなことが言えるんだ」
「アーリン?」
なんだか感じが変だ。寝ぼけながらも立ち上がろうとしたジェイソンを、アーリンは「くるな!」という強い言葉で押しとどめた。
「……俺の事を知ったら、お前も俺を嫌うだろう」
「え? なんで?」
「……やっぱり、お前なんて大嫌いだ」
背を向けて出て行くアーリンに手を伸ばすも、掴むものは空気ばかりで何も無い。ジェイソンは空の手を見つめる。そしてグッと拳を握った。
今、アーリンを手放してはいけないと、本能みたいなものが警告している。何があるのか分からないけれど、放っておく事なんてしたくない。
彼から目を離さないようにしなければ。ジェイソンは改めて気持ちを新たにするのだった。
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