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ジェイソンの悩み?
その夜は反省部屋で寝て、翌日は朝から反省文を書かされた。入団試験の時以来の真面目な文章と切実な反省に気落ちしながらもどうにか書き終え、ランバートに提出すると思い切り笑われ「真面目だな」と言われてしまった。
キョトッとしていると、ランバートはまるで悪戯をする少年のような笑みを浮かべて「俺が昔に書いた反省文を教えようか?」と言って、紙にたった二行「すみませんでした。でも俺は間違ったとは思いません」と書いた。
驚いて怒られなかったかを聞いたら、「ファウスト様から大目玉食らった」と大笑いしていた。
こんな凄い人でも反省文を、しかもこんな内容で書いていたのかと思ったら、少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
午後からは通常通りでいいということなので、昼食は食堂へ。そこに行くと不安そうな仲間達の顔があって、ジェイソンを見ると一斉に近づいてきた。
「ジェイソン、大丈夫なのかい?」
「え? 何が?」
「何がって……お前が暴力沙汰起こしてピンチだって聞いたんだぞ!」
「あー」
まぁ、ピンチではないけれど暴力沙汰は起こした。頭をかいていると、俯いたままのユーインが今にも泣き出しそうな様子で出てきた。
「ごめん、ジェイソン。僕が知らせたの」
「ユーイン」
「ごめん。ごめんね。僕……」
「どうしてお前が謝るんだよ。むしろあれで良かった。おかげで助かったんだ」
「ジェイソン……」
「暴力については怒られたけれど、おかげでアーリンを助けられた。有難うな」
ニッカと笑ったジェイソンを呆然と見上げたユーインは、大きな目に浮いた涙を拭って笑ってくれた。
「そのアーリンがさ、やっぱいないんだよな」
コリーが食堂を見回す。それについてはジェイソンも気になっていたが、見つけられないだけだと思っていた。
だがやはり、いないのか。
「今朝、ブランドン達が馬車に詰め込まれて出て行ったのは見かけたから、それじゃないと思うんだけどさ」
「ブランドンが?」
コリーは素直に頷く。実はランバートからブランドン達の事は聞いていなかったのだ。
「宿舎に戻って色々聞かれるらしい。もしかしたら辞めるかもね」
「……そっか」
ランバートが少しだけ言っていた。「入団三ヶ月までが、一番人が減る」と。もしかしたらブランドンはもう、騎士団から去るのかもしれない。
結局昼食の時間ギリギリにきたアーリンは、味もへったくれもなく昼食をかき込むとまた出て行った。確かにランバートが作った料理に比べれば味も雑なのかもしれないが、第四が頑張って作ってくれた料理は美味しく思えるのに。
「彼は余裕がないのだよ」
出て行ったアーリンを見つめていたジェイソンに、スペンサーが食後のお茶を飲み込みながら縁側のジジイみたいな調子で言った。
「心に余裕がない。常に追われ、常に緊張し、警戒している。きっと、食事の味も分からないのだろうね」
「スペンサー」
「可哀想な生き方だとは思わないかい?」
「……うん」
思い出したのは昨夜の話。ルースの従兄弟として、さらし者にされて色んなものを失っていったアーリン。きっと、苦しかっただろう。絶望も沢山した。叫んでも助ける人はいなかったのかもしれない。
けれど、ジェイソンは手を差し伸べ続けたい。その手を拒まれても、彼が取ってくれるまで。
「俺は、アーリンのこと放っておけないんだ」
味方になる。部屋も一緒だ。それにここでジェイソンが手を引っ込めたら、アーリンはこの場所で一人になってしまう。そんなの、悲しいだろう。
「おや、ジェイソンはアーリンにほの字なのかな?」
「ほの字?」
「スペンサー、既に死語みたいなもんだぞ」
「おや? そうかな?」
ユーインもコリーも、当然ジェイソンも首を傾げる。だがリーだけは何を言いたいのか分かったのか、額に手を当てて頭を振った。
「つまり、ジェイソンはアーリンに惚れてるのかって聞いてるんだよ」
「惚れてる?」
呆れたリーの言葉を正面から受け止めたジェイソンは少し考えた。けれど答えは、分からないだった。
放っておけない。多分好意はある。嫌な相手じゃないんだから。寂しそうにしていたら抱きしめたいし、困ってるなら力になりたい。けれどこれは、惚れていると言えるのだろうか。
「分かんないや。俺、恋愛とかしたことないし」
「な!」
「ほぉ」
「そうなのか!」
リーが驚き、スペンサーがしげしげと見つめ、コリーが声を上げる。
ジェイソンはそんな彼らを見て、何度もコクコクと頷いた。
「いや、恋愛よりも楽しい事沢山あるだろ? 剣とか、馬とかさ」
「ガキかお前は!」
「恋人いなかったのかな?」
「社交界は苦手でさ。行くと色々五月蠅くて。だからまず、出会いがなかった」
「ジェイソンらしい、です」
ユーインにまでそんなことを言われ、ジェイソンはふてくされた顔をする。
そして改めて考えるのだ。アーリンへ向けるこの感情は、なんなのだろうかと。
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