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第三話 今でも覚えてる
僕はもともとストリートチルドレンだった。
そよかの屋敷に雇ってもらえたことは幸運ではあった。
旦那様を見かけることはめったにないが、御恩を忘れてはならない。
僕の直属の上司もかつては特に官位のない平民だったそうだが、異例の出世をしたそうだ。
そんな人間はほんの一握りだとは思うが、自分も彼のように旦那様や周りの人間から高い人望を得て少しでもそよかに見合う男になりたい。
僕が生まれる以前から、隣国とは上手くいっていなかったようだが、最近では全面戦争という言葉を耳にするようになった。
「お国のために、大河も貢献できるんだぞ」
小さい頃から祖父がそう話すのを僕は黙って聞いていた。
そんな祖父は数年前病に倒れて、その後快方に向かうことはなかった。
この国の現リーダーは市民の苦しみにあまり関心がないが、彼を支える旦那様は我々の不満の声に耳を傾けてくださっている。
そよかには将来の配偶者が決められていて、自分はその相手を知っている。
そよかの話し相手になったときから、彼女にはどこか観念して生きているような雰囲気を感じていた。
同じ年頃の女性と話したことなど滅多になかった僕は、話題の糸口を探すのにいつも苦労した。
「自分のような貧困家庭の出の者がこちらで働かせていただけるなんて、とても運がよかったと思っています」
「・・・。どうかしら。私の話し相手なんて誰も関心がないと思うから、どちらかというとハズレな役割よ」
「・・・・・・。」
「聞いてる?」
弱視のためにあまり僕の表情を読めないそよかは、不安そうな顔をして頭を傾げる。
「いいえ、そうは思いません」
「どうして?」
今度は僕が首を傾げると、そよかさんには旦那様と似ているところがあって、人を動かすような何かを感じると言った。
「ふふ」
そよかはなんだか機嫌がよくなった。
「あなたもよ」
「え?」
あなたと話しているといい意味で感情が煽られると彼女は口角を上げた。
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