4人が本棚に入れています
本棚に追加
第四話 hopeless
お嬢様には思いを寄せる人がいる。
彼女がまだ幼い頃から身の回りのお世話をさせていただいているのだが、とても無気力な子供だった。
お嬢様の立場上、お国のためにならない方とご一緒になることは許されていないのだが、彼女の想い人と接触のあった後、充足感でいっぱいな表情を目にすると、伴侶を好きに決めさせてあげたくなる。
「詩乃、もし私が大河と一緒になったら、彼は投獄されてしまうかしら・・」
大河というのはお嬢様の話し相手で、貧困家庭の出の者なのだが、せっせと働く真面目な若者だ。
「お嬢様・・。彼はいい若者ですが、お嬢様には結婚を約束された方が他にいるではないですか」
するとお嬢様は諦めるしかないのですねとさみしそうな顔をされる。
「でも神様はどうして私たちを結び付けたのかしら・・・」
彼女の立場を気の毒に思いながら、神は人を愛するということをお嬢様に教えてあげたかったのだろうかと思った。
「きっとお嬢様が気楽にお話しできる相手をお膳立てされたのでしょう」
今日の曇り空と同じようなどんよりとした目をして、お嬢様は彼は私の夫に向かないのですねと言う。
「私はその会ったこともない方と共に苦しむことができるのかしら・・」
お嬢様が疑問の砲火を浴びせることができる唯一の人間が自分だと思うので、私はいつも黙って聞くように心がけている。
彼女がこの国の未来を一手に負うのは荷が重すぎる。
「上手く言えませんが・・、その方とご一緒になることは避けては通れないと思いますが、もしかしたらお嬢様のありのままを受け入れて下さる方かもしれませんし・・」
するとお嬢様はそうね、抵抗を示したらお父様を困らせてしまうでしょうしと子どもの頃のように覇気のない顔になった。
大河によって、あれほど満たされた表情をすることができる彼女に当たり障りのないことしか言えない自分が徐々に許せなくなってきた・・。
最初のコメントを投稿しよう!