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第一話 迷わずあなたを選びます
月明かりの下で、そよかは静かな威圧感を放っている。
神に背いていることを誰にも邪魔されたくないかのように。
「望みを捨てないで」
一緒にいても傷つけ合うだけなのだろうかと弱音を吐いた僕に、彼女はそう呟いた。
そよかは僕のように迷いを見せたりはしない。
僕たちの状況を冷笑することさえあった。
そんな彼女を悲観的な僕とは違って強い人なのだと思っていたけれど、後になってみるとただ耐え忍んでいたのだなと感じる。
報われない関係を忘れて、時々そよかは身を捧げるように月を眺めた。
「身の危険を感じたら逃げてね」
彼女は地図を広げて目的の場所を指さした。
「生きる時代が違ったら、僕たち幸福な時を過ごせたのかな・・・」
「大河と平和な環境にいたら、私きっと欠伸を連発してるだろうな」
僕たちは人前では目礼をするだけの間柄だった。
僕は単独では何もできないけれど、そよかは二人のとき甘えてくれることがあった。
「眠ってもいい?」
いつも強そうに見えるのに、アンバランスなところが魅力に感じ、僕はそういうとき彼女を抱きしめて口を封じた。
「浄化された・・」
「えっ?」
そよかは目元を覆うと、知らず知らずのうちに自分の中で大河のことが不可欠になってきてしまったと不貞腐れた。
「お忘れなく」
念を押すように言われて、僕は南の空を眺めながら心に刻みとめておこうと思った。
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