7 4回目の春、屋上

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7 4回目の春、屋上

 柔らかな風が頬を包んで流れていく。真新しいスカートの裾が踊る。屋上の草花も楽しげにその体を揺らしていた。 天と御桜が出会って4回目の春が巡ってきた。  2人は高校一年生になり、セーラー服のスカーフが一段深い色になった。  2人の通う中高一貫の女子校の制服は、薄茶色の生地に白い線の入ったセーラー服で、学年が上がる毎にスカーフの色が変化していく。  中学1年が紅梅色、2年が梔子色、3年が空色。高校生になると深くなり、1年が臙脂色、2年が山吹色、3年が露草色。 6学年が整列すると、大層色鮮やかで美しい。  セーラー服の本体は変わらないから、制服そのものを買い変える必要はないけれど、皆少なからず成長して丈が短くなったり、どこかしら体に合わなくなっているため、高校に上がる時に買い替える。 天もあまり身長は伸びずいまだに小柄だが、御桜は留まるところを知らないかのようで、今年で173cmになる。それでもまだ伸び続けているというのだ。その上、手足が長くすらりとした体型のためにスタイルが抜群にいい。 バレエをやめてからは、休日にママさんバレーとかに参加させてもらっているようで、筋肉もほとんど落ちていない。とんだ“バレエ”違いだ。 「御桜?」 高校の入学式が午後から始まる前に、天は屋上へとやって来た。教室もクラスメイトも変わり、落ち着かなくなって逃げてきたのだ。  今年は御桜とクラスが離れてしまった。 天が沢山の植物に囲まれた屋上庭園に足を踏み入れると、いつも天と御桜が座っている縁の段差のところに御桜が仰向けで寝転がっていた。組んだ両手を枕代わりにして、足を投げ出して気持ち良さそうにスヤスヤと寝息を立てている。 大分暖かくなったし、今日は一段と日差しが強く、ぽかぽかして気持ちの良い昼下がりだけれど、流石に風邪をひいてしまわないだろうか? そう思ったけれど、あまりに気持ち良さそうに眠っているものだから、天は起こすに起こせず、御桜の側にしゃがみ込んだ。 顔を覗き込む。邪気のない本当に気持ち良さそうな寝顔。相変わらず繊細な顔立ちで、長い睫毛や前髪が風に揺れながら飴色に透けている。 綺麗ーー 開いた襟ぐりから覗いた鎖骨がやけに眩しく見えた。 普段はスカートで隠れている太腿が風で煽られて見える。白くて、血色がいい。内股に黒子が3つ並んでる。 半開きの薄い桃色の唇が瑞々しい。 柔らかそうだ。 この、柔らかいものに触れたら気持ちよさそうだな。 触れ、たい。 ドックン…ドックン…  まるで吸い寄せられるように手が動いて、御桜に触れようとする。  胸がうるさくて、痛くて、壊れてしまいそうだ。 後3cm。 いつもより強い鼓動に血流が良くなったのか、顔が熱い。それなのに指先は凍えたように冷たくて小刻みに震えていた。  本当に触れてしまったら、この柔らかさを、温みを、知ってしまったら… ドックン…ドックン…ゴクリ。 生唾を飲み込む。喉の音がやけに大きく響いた。 ーーヒタリ。 御桜に、触れた。 唇の端に落とした指先で唇をなぞっていく。 優しく、羽毛のように。 柔らかくて、温かい。 指先から温もりが伝って全身をめぐる。先程までの激しい寒暖差とは打って変わって頭がポーっとする。  お腹の底がズクンと痺れた。 「ん、ん〜?」 御桜が微かに呻いた。  天は熱せられた鉄に触れた時のように、パッと手を離して慌てて御桜に背中を向けた。 トクトクトクトク。 今度は小刻みに鼓動する。のぼせていた頭が瞬時に冷えた。
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