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男子たちが教室から出ていくと途端に部屋は静かになる。
悠野も男子に続くように教室を出ようとする。
「今出るのはやめとけ」
足音は止み、悠野はこちらを見てくる。その視線は何故という意味が込められてるように見えた。
「だって、あいつらの後ろを行くわけだろ?そしたらあいつら絶対お前の悪口言うぞ?それもお前に聞こえる声で」
悠野はゆっくりとした足取りで俺の後ろに回る。
あ、そういえば悠野って俺の後ろだったな。
「ありがとう」
ポツリと言われた。意識を向けてないと聞き逃すところだった。しかし、俺はその言葉に、ため息しかでなかった。
「…はぁ〜、感謝の言葉は出せるんだな」
呆れたような、笑うような声音でいった。
「…どういうこと?」
放たれた声は震えていた。
俺は後ろを向きこう言う。
「お前が悪口を言われてるときの苦しさはよくわかるよ、俺も経験あったから」
俺はわざと悠野が求めた答えではなく同情してやった。すると案の定。
「…じゃあ、なんで助けてくれないの?」
また震えた声で返ってきた。
「『やめて』の一言も言えない根性なしを助けたくないから」
その潤んだ瞳の奥には疑問と憎悪が入り混じったように見えた。
「『なんで?』って顔してんな。だってそんな奴いいマトだろ?マトになりたくないならその意思を示せ。もし、それがくだらないプライドが邪魔して出来ないなら……まぁ、あとは自分で考えろ」
言ってやった。この言葉をどうこいつが捉える分からないが、マイナスの意味で捉えるならこいつはここまでだな。
「うん、分かった」
「へ?」
「言われた通りにやってみるよ」
その瞳はさっきと打って変わって、希望に満ちていた。そして、その声は随分と気の乗った声だった。
てか、ここまで馬鹿正直に受け入れるなんてな。流石に予想外中の予想外だわ。
「改めてありがとうね、…え、えっと〜」
「ん、どうしたんだ?」
「…名前、なんだっけ?」
まさかの言葉に笑みが零れてしまう。
「…柳秀だよ」
悠野は一度、小声で俺の名前を繰り返すと小さく頷いた。
「ありがとうね、シュー君」
部屋を出るとすぐにまた戻ってくる。
「あ、またね」
悠野は駆け足でこの場を後にした。
……下の名前で呼ぶな。
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