また、__

2/7
前へ
/7ページ
次へ
男子たちが教室から出ていくと途端に部屋は静かになる。 悠野も男子に続くように教室を出ようとする。 「今出るのはやめとけ」 足音は止み、悠野はこちらを見てくる。その視線は何故という意味が込められてるように見えた。 「だって、あいつらの後ろを行くわけだろ?そしたらあいつら絶対お前の悪口言うぞ?それもお前に聞こえる声で」 悠野はゆっくりとした足取りで俺の後ろに回る。 あ、そういえば悠野って俺の後ろだったな。 「ありがとう」 ポツリと言われた。意識を向けてないと聞き逃すところだった。しかし、俺はその言葉に、ため息しかでなかった。 「…はぁ〜、感謝の言葉は出せるんだな」 呆れたような、笑うような声音でいった。 「…どういうこと?」 放たれた声は震えていた。 俺は後ろを向きこう言う。 「お前が悪口を言われてるときの苦しさはよくわかるよ、俺も経験あったから」 俺はわざと悠野が求めた答えではなく同情してやった。すると案の定。 「…じゃあ、なんで助けてくれないの?」 また震えた声で返ってきた。 「『やめて』の一言も言えない根性なしを助けたくないから」 その潤んだ瞳の奥には疑問と憎悪が入り混じったように見えた。 「『なんで?』って顔してんな。だってそんな奴いいマトだろ?マトになりたくないならその意思を示せ。もし、それがくだらないプライドが邪魔して出来ないなら……まぁ、あとは自分で考えろ」 言ってやった。この言葉をどうこいつが捉える分からないが、マイナスの意味で捉えるならこいつはここまでだな。 「うん、分かった」 「へ?」 「言われた通りにやってみるよ」 その瞳はさっきと打って変わって、希望に満ちていた。そして、その声は随分と気の乗った声だった。 てか、ここまで馬鹿正直に受け入れるなんてな。流石に予想外中の予想外だわ。 「改めてありがとうね、…え、えっと〜」 「ん、どうしたんだ?」 「…名前、なんだっけ?」 まさかの言葉に笑みが零れてしまう。 「…(やなぎ)(しゅう)だよ」 悠野は一度、小声で俺の名前を繰り返すと小さく頷いた。 「ありがとうね、シュー君」 部屋を出るとすぐにまた戻ってくる。 「あ、またね」 悠野は駆け足でこの場を後にした。 ……下の名前で呼ぶな。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加