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朝起きると時計は7時を指している。
高校生となった今でも相変わらず親はいない。しかし、変わったことは一つだけある。
それは…
『ピーンポーン』
不意にインターフォンが鳴る。
人を迎えようとソファーから降りてドアを開けると、少し離れた門から制服を着た少女がこちらの様子を伺ってくる。近くまで行き、門を開けると何の躊躇もなしにそいつは中に入る。
あの時から変わったことそれは、
「シュー君、またソファーで寝てたの?」
俺と桜との関係だ。
最初はチョットした友達だったが、段々と距離が縮まってきて今となっては彼氏彼女の関係になっている。
ちなみに、関係が縮まることに比例して俺と桜の身長の差は大きくなっていき、いまは俺の方が桜より30cm大きくなっている。
「え、なんで分かったの?」
「だって出てくるのが早かったもん」
桜はフグみたいに頬を膨らませる。
「別に良いだろ?そんくらいさ、いつものことだろ?」
「まぁそうだけど……」
家に入ると桜はカバンをさっきまで俺が寝ていたソファに置き、軽い朝ごはんを作り始める。
彼氏、彼女の関係になってからこういったことが当たり前になってきた。他が同じかどうかは知らんけど。
俺が制服に着替えてリビングに戻ると、ご飯はほとんど出来上がっていた。そうこうしている内にご飯が俺の座っている机に届けられる。
「ほいほーい、彼女お手製の朝ご飯ですよー」
「…それ自分で言うか、普通」
「え?普通そうじゃないの?」
「本の読みすぎだろ」
「シュー君にだけは言われたくないな」
俺が苦笑しながら言うと、桜は失笑しながら返してくる。
彼女は俺の目の前に座ると微笑みながらこちらを見続ける。
「な、なに、恥ずいんだけど」
すると桜は誤魔化すように笑いながら言う。
「んー?いや、よくこんな関係になったなーって」
おそらく、これは俺の求めていた答えではないだろう。しかし、深追いをする意味もないので素直に受け止める。
「そうだな、元々は友達でもなんでもなくて、イジメられてるお前を見かねて俺がアドバイスしてやったんだっけ?」
桜は指を振って首肯する。
「そうそう。てか、よくよく考えてみたら君の理論メチャクチャだよね」
我ながら、その言葉に思わず苦笑してしまう。
「あれは…まだ小さかったし本とかに感化されやすい年だったからな。黒歴史だよ」
「へー、じゃあもし私が今イジメられてたら何も言わなくても助けてくれる?」
その言葉にそっと視線を外す。
「あ!もうこんな時間だ!急がないと!」
「まだ時間あるでしょ」
ちぃ、バレたか。
まだご飯を残したまま逃げようとすると、腕を掴まれる。
「わかったよ、言えば良いんだろ…」
「そ、良かった」
桜は優しく微笑んでくれる。
ゆっくりと少しだけ息を吸って口を開く。
「助けるよ、…お前だったらな」
「私以外も助けてね」
ちゃんと言ったのになぜか桜はそっぽを向いてしまう。
「良いだろ別に。お前くらいしかまともに話せる相手いないし、お前以外と話せる勇気ないし…」
「小学生の頃より退化してるじゃんか……まぁ、今回はこれで良っか」
なぜかすんごい上から目線で許された…。
椅子に座り直して、再度ご飯を取り始めようとすると、突然顔を両手で挟まれ、強引に目を合わせられる。
「でも私は、いつかシュー君を変えてみせるよ」
そう言い終えるとゆっくりと手は離される。頰には微かだからが暖かさが残っている。
そして桜は笑いながら、
「また、あの時みたいに」
と。
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