2新しい生徒が増えました

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2新しい生徒が増えました

 私は、塾講師のアルバイトをしている。大学に入ってすぐに初めたバイトだが、いろいろあって、最初に勤めていた塾はやめてしまった。しかし、塾で生徒に勉強を教えるのは思いのほかやりがいがあったので、今も別の塾で講師として働いている。 「こんにちは。今日もよろしくお願いします」 「こんにちは。こちらこそよろしくお願いします」  塾講師の仕事内容は簡単だ。個人指導を専門とする塾で働いているので、黒板を使って、大人数の生徒に一斉授業をすることはない。生徒たちは、塾で購入したテキストを各自進めていき、わからないところを教えたり、アドバイスしたりするのが主な仕事だ。  それ以外には、塾の生徒が快適に勉強できるように、塾内の清掃を行ったり、生徒の保護者にむけての連絡をノートに書きこんだり、生徒のカリキュラムを組んだりといろいろだ。  一緒に仕事をしているのは、車坂という男性だ。メガネをかけた、神経質そうな真面目そうなインテリ系な人間にしか見えないが、実際は全然違う存在だった。 「いつみても、人間にしか見えませんね。塾講師をしている男性だとしか」 「当たり前でしょう。ここでは、私は塾講師をしている車坂というただの人間ですから」 車坂は人間ではない。私の家に居候中の狐の神様、九尾のせいでお知り合いとなった死神である。なぜか、私を監視するという名目のもと、同じ塾で一緒に働いている。いや、それは正しくない言い方だ。正しくは、私が新たに働きだした塾で、すでに車坂が働いていた。私に正体を知られてもなお、車坂が塾講師をやめずに、私と同じ塾で働いている。私も正体を知りつつも、やめずに塾講師のバイトをしているといったところだ。 「そうですね。今は車坂先生でした。でも、自分の死神としての仕事はしなくていいのですか。私の監視とはいえ、他にも仕事はあるのでしょう」 「おや、心配してくださるのですか。まあ、心配には及びません。今の私の仕事は、あなたたちを監視することですから」  私を監視すると言っていたが、どうやら九尾たちも監視しているらしい。 「こんにちは。今日もよろしくお願いします」  塾にもう一人、先生がやってくる。最近は、私と車坂、もう一人の三人体制で塾を回している。 「こんにちは。翼君」 「相変わらず、何とも言えない気配で、浄化したくなりますねえ」  私と車坂以外のもう一人とは、私の家に九尾とともに居候している翼君だ。いまだに人間界に未練があるのか、幽霊となってこの世に残るだけにとどまらず、最近では九尾と契約して、九尾の眷属となってしまった。簡単に言うと、九尾の下僕となってしまったのだ。  翼君は、私が以前勤めていた塾にいた男、瀧に殺され、幽霊となってしまった。瀧の変態性により、魂をゆがめられ、子供姿の幽霊となってしまい、今でも通常時はその子供姿のままで過ごしている。その際に、能力者であった彼は、力を使う際に現れる身体の変化がそのまま幽霊にも反映されてしまった。  ケモミミ少年の幽霊となってしまったのだ。ウサギの耳に尻尾が生えている、ロリコンにとってはたいそうごちそう物の姿である。今は塾講師をするということで、姿を変えて、青年姿で耳も尻尾も生えていない。 「では、今日も生徒のためにお仕事頑張っていきましょう」 『はい』  私たちは、車坂の言葉に元気よく返事をして、生徒を迎えるための準備を始めた。 「では、お子様をお預かりします。また授業が終わる九十分後にお迎えに来てください」 「わかりました。じゃあ、雪子、勉強頑張るのよ」 「うん」  今日から新しい生徒が塾に来ることになった。名前は、大橋雪子 (おおはしゆきこ)。名前の通り、肌の色が白い、はかなげな印象の雪の妖精みたいな女の子だった。肌は、白いというよりは、青白いといった方が適切かもしれない。病的といっていいほど、白い肌をしていた。 「大橋雪子、小学四年生です。国語は得意で、算数が苦手です」  一度、体験学習に来たことがあり、そこでこの塾のことを気に入ったようで、入塾に至ったらしい。 「ゆきこちゃんだね。私は朔夜蒼紗です。よろしくね」 「車坂です」 「宇佐美です」  私たちはそれぞれ自己紹介をした。ゆきこちゃんは、私たちの自己紹介を黙って静かに聞いていた。今日はストーブの効きが悪いのか、部屋の中が妙に寒い気がした。外を見ると、雪がちらついていた。  今日の最初の塾の生徒がゆきこちゃんだったので、三人で一斉に自己紹介をしたのだが、一人の生徒に対して、三人も先生はいらない。ゆきこちゃんが女の子ということで、女性である私がメインに担当することになった。 「国語が好きだって言っていたけど、文章を読むのは好きなのかな?」 「私は読書が好きで、ライトノベルとかも読むんだけど、せつこちゃんはどんな本が好き?」 「その問題の答えは、惜しいね。もう一度計算してみてみようか」 「そうそう、算数苦手と言っていたけど、計算は得意そうだね」 「……」  人見知りな性格なのだろうか。体験入学の時はそこまで気にならなかったが、あまりの無反応さにどうやって話しかけたらいいかわからなくなった。今日が初当塾日だから、緊張しているのか。自己紹介の一言以来、話しかけても返事をしてくれなかった。私が一方的に話すだけで、私の声がむなしく部屋に響き渡る。今日はたまたま、ゆきこちゃん以外にまだ生徒は来ていなかった。 「私の話がうるさかったかな。塾の先生だから、ゆきこちゃんのことはしっかりみてあげようと思っているけど、まだ緊張しているね。テキストの問題を解いて、わからないところがあったら言ってくださいね」  とりあえず、塾で配布されるテキストの問題を解いている様子を黙って見守ることにした。慣れるまでは、口数が少なく、何も答えない生徒は今までに何人も見ている。その類かもしれない。徐々に仲を深めていけばいいだけの話だ。すぐにやめると言い出さなければ、時間をかけて、信頼関係を築くことは可能だ。  じっとゆきこちゃんだけを見つめているだけでは手持無沙汰なので、ちらと車坂と翼君の様子を観察する。何やら、部屋の隅でこそこそと話し合っていた。 「こんにちはあ」 「こんちは」 「こんばんはあ」  そうこうしていうちに、新たに塾に生徒がやってきた。  三つ子が塾にやってきた。三つ子たちは、私が以前勤めていた塾から、私を追いかけるように前の塾をやめて、こちらにやってきた変わり者の兄弟である。彼らも最初は口数が少なくて、おとなしかった気がする。それが、今では私たちに話したいことがたくさんあるのか、いつも塾に来ると、興奮して話し出す。  彼らは時折、興味深い話を私たちにしてくれる。今回は、十二月の赤いおじさんに関するある噂だった。
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