18人が本棚に入れています
本棚に追加
だからこうして僕は、人々に目を向ける。
女性だ。女性を見つけるんだ。
あの僕に向けられていた笑顔を、雰囲気を、顔を思い出せ。
そう。僕は十数年こうして暮らしてきた。彼女を探すために暮らしてきた。
虚無に包まれた日々を、一人で過ごしてきたんだ。
もちろん、僕に話しかける人なんていない。最初はいたが徐々に減り、今は滅多にいなくなった。
嬉しい限りである。人と触れ合うことが苦手な僕には、これほど最高なことなどない。
――トントン。
けれど、今日はその滅多にない日だったらしい。
肩に伝わる手の感触。後ろに感じる、微かな香水の匂い。
(誰だ?)
わざわざ後ろに回り込むなんて、気さくな人である。僕の話しかけるなという雰囲気が伝わっていないのだろうか?
そんなことを考えながらも、後ろを振り返った。
「……えっ?」
――そこには、僕が待ち望んでいた人がいた。
叶わぬことが多い中、一縷の希望にすがる思いで、心を侵食する絶望と日々戦いながら待ち続けていた人が――そこには、いたんだ。
喜びが全身に染みわたり、無意識のうちに伸ばしかけた手が震える。
声は涙が邪魔をして出ず、代わりに出てくる嗚咽は堪えてただただこの感覚を味わう。
最初のコメントを投稿しよう!