18人が本棚に入れています
本棚に追加
「由姫、いいんだよ。これは僕が願ったこと、神サマに叶えてもらった、僕の望みなんだから」
胸の中にある、由姫の温もり。触れることはもう叶わないと思っていた、大切な感触。
――ただし、それは数分だけだよ。
さっきの男の方の神様が、意識が途切れる間際頭に響かせたセリフが、蘇ってきた。
『さすがの私にも、他の神様がかけた術を解くということはできない。だから、数分だけだよ。数分だけ、君を外に出してあげる』
最後まで不気味な雰囲気を放っていた男は、そう言い残し、たぶん消えた。今頃はきっと、どこかで僕のことを見て、クスクスと笑っているのだろう。
でも安心して、神様。僕はもう、失敗したりしない。最後に残った時間を、チャンスを、僅かな希望を、僕はもう、無駄にはしない。逃げたりしない。
「ねえ、由姫。好きだよ」
耳に口を近づけ囁く。
いつもは人目をはばかるところだが、今はそんな余裕も時間もないので、恥ずかしいことでも何でも言える。
「あの時部屋に入っていた女の子は、家出だったんだ。道で困っていて帰る家がないっていうから、とりあえず僕の家に連れてきて、家に帰るように説得していたんだよ。キスの方は……たぶん、何か頬にご飯粒でもついていたんじゃないかな。僕が由姫以外を好きになるなんて、ましてやキスするなんて、ありえないことだから」
由姫の体がこわばっているのが、手から伝わってきた。嫌がっているわけではなく、緊張しているのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!