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エピローグ
「あなたは、誰ですか」
気がついたら見知らぬ人、見知らぬ場所が目の前に広がっていた。
いや、人や場所だけではない。僕は、自分自身のことも分からなかった。自分がどこの誰で、名前は何で、家族は誰で――そういうもろもろのことが、抜け落ちていた。
体が震える。いきなりのことに、これから先が見えず戸惑い、どうしたらいいのか分からないという恐怖が僕に襲いかかる。
(怖い、怖い、怖い……)
そんな耳を抑えて震えだした僕を、目の前にいる二人の女性のうちの一人が、優しく掻き抱いてくれた。
「大丈夫、大丈夫」
そう言って、頭をポンポンと撫でてくれる。
なぜだろうか、その人の腕の中は懐かしくて、暖かくて、大好きな匂いがした。だから僕も安心し、彼女に身を任せる。甘い匂いに包まれて、僕は子供のように、泣きじゃくる。
――ずっと、ずっと、一緒にいようね。
ふと浮かんだ思いに疑念を持つこともなく、僕は彼女の腕の中で、彼女の背中に手を回した。
「もう離れない、逃げないからね、麻耶」
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