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秋生は現時点でルベリエの仕事で見かけたと、小さな化粧品会社の販促ポスターを依頼されていた。
名指しで依頼は初めてで嬉しいのと不安でいっぱいだったが、秋月に話すと凄く喜んでくれたのだ。
ーー「良かったな?うちの社員じゃなくても、うちで頑張っていた事は見ている人は見ていてくれるんだな。」
その言葉が嬉しくて、気合いが入った。
夏休みに入ってすぐ、秋月から温泉に行かないかと誘われていた。
コマーシャル撮影予定の温泉を予約出来るらしい。
水族館も通り道にあると話していて、然と二人で盛り上がり、強く反対も言えずに温泉行きは決定した。
お盆休みまでにポスターを決定したくてバタバタしていた。
一人だけ行けなくなると然も行けなくなるし…そんなプレッシャーの中で仕事を進めた。
温泉の予定が近付くに連れて色々考え始めた。
ーー「一緒の部屋?」
ーー「然が寝たらどうしたらいいの?」
ーー「え?そういう事なの?だって…恋人未満でしょ?」
考え始めたら止まらず、一人で赤くなったり青くなったり…。
聞くことも断ることも出来ずに当日になってしまった。
(聞こうか?軽い感じで……。)
秋月さんを待つ間、そんな事ばかりを考えていた。
車が目の前に停止して秋月さんが降りて来た。
顔色が悪い気がして心配になった。
「お待たせ。然、今日は後ろな?少し距離があるから、寝ちゃうといけないし。」
「えぇ〜!前がいい……。」
「途中でお母さんのとこがいいって言っても移動できないぞ?」
二人で珍しく言い合い。
最終的に秋月が折れて、休憩処で後ろに行く事で納得させる。
然を助手席に乗せて、シートベルトを確認する秋月に声を掛けた。
「忙しいんじゃないですか?お仕事。昨日、寝てないとか?」
少し笑い、赤い目で秋月は答えた。
「ばれたか。寝てないって程じゃないけどね。ここのところ、ほら、休み前は何処も忙しいからね。でも今日は温泉入ってゆっくり眠れるから…。
水族館は明日の帰り道な?」
然にも声を掛けて、
「秋生も乗って。大丈夫、安全運転しますからね。」
と笑う。
聞きたい事も聞けないまま温泉宿に到着した。
然は秋月と入ると言うのでお任せして、久々にのんびりと一人で温泉を満喫。
ずっと然と一緒に居たから、居ないのが変な感じもした。
部屋に戻ると豪華な食事がテーブルに乗り切らないほど並んでいて驚いた。
秋月がコマーシャルを手掛けるので、宿からのサービスもあるみたいだ。
「すごいですね…。」
呆気に取られて言うと、
「うん…。なんか逆に悪いなぁ…。予約を入れてもらえただけでも有難いのにね。」
と、秋月も同意しつつ、返すわけにもいかないからと有り難く頂く事にした。
然が寝てしまうと途端に秋生は緊張に襲われた。
くだらない事を考えてしまう。
(下着……何着てたっけ?いや!無理無理!恥ずかし過ぎる!
ほら!然もいるし…。その前になんで一部屋なの?
そりゃあ、然は別の部屋になったら五月蝿そうだけど……。
そういう感じになったらどうしたらいいの?断っていいの?
秋月さん、傷付かない?)
かんちゃんとしか経験がない。
というか…秋生はかんちゃんとも片手で足りる程しか記憶がない。
然が出来たのが不思議なぐらいだった。
「秋生?ちょっと、話が出来ないかな?」
部屋の奥の、窓の側に置かれたソファに座っている秋月に誘われた。
大人しく、秋月が座る前に腰を下ろした。
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