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「夏休みもすぐに終わってしまうし…お互い仕事で忙しいから、ゆっくり話すチャンスもないし…。然の誕生日に智子さんに話した事、真剣に考えて欲しい。」
秋月に言われて思い返した。
「然の誕生日?」
少し意味がわからずに停止した。
「名字が変わるなら、然が小学校に上がるタイミングがいいっ言った事だ。
そのつもりがあるなら、年明けには籍だけでも入れたい。小学校から然が秋月になる様に。嫌かな?こういう言い方をすると然を利用するみたいで考えてしまったけど、いつかそうなりたいと思っていて早いなら早い方がいいと考えた。秋生の意見を聞きたい。」
「意見」と言われてしまうと、然の事を中心に考えてしまう。
「然の為を思えば、それが良いタイミングだと分かる。
でも、私はまだそこまで現実的に考えてない。然と二人で…生きていく道もあるかもしれないと、思う時も…あるし…。」
「好きだけど、好きだから」踏み込めない、その先が怖い時がある。
黙り込んだ秋生に秋月は言う。
「ごめん、無理に一緒になって欲しい訳じゃない。来年の2月頃に然の事を知って1年になるだろ?その頃に籍を入れられたらいいなぁと、思っただけなんだ。然にも良い事だって…。こんなプロポーズじゃ嫌だよな。秋生は…恋人以上には思えない?」
そんな事ない!って言いたいけど、言葉が出てこなかった。
言ったら、かんちゃんが全部、自分の中から消えてしまう気がしていた。
だから、ただ黙って首を振った。
「ごめん。気が早かったな。友達以上でも十分幸せなのに、ついもっと幸せを求めてしまったよ。ごめんな?忘れてくれ。今まで通りで十分だよ。」
少し笑って、寝ようと秋月は言い、然の隣に入った。
あんまり寝てないからよく寝そうだよ…と言いながら、おやすみと呟いた。
秋生は暫くソファに座ったまま、眠る二人を見つめていた。
翌日は変わらない笑顔を秋月は二人に向けて、帰りは予定通り水族館に寄った。
二人の後ろを少し離れて付いて行き、親子みたいな二人を見つめた。
(この先、然がこんなに懐く人はいないかもしれない。然をこんなに可愛がってくれる人にも出会えないかもしれない。好きだと思える人も…もう巡り会えないかもしれない。でも……かんちゃんが消えていく…。)
辛くて苦しくて、誰にも見られないように秋生は涙を拭った。
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