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保育園の夏休みも明日終わるという日。
少し早い台風が近付いていた。
秋月は盆休み明けから9月のCM撮影で忙しく奔走していて、あの旅館にいく事も増えていた。
部屋に来るのも2日に一度になり、夏が終わる頃には4日置き位になっていた。
「然。秋月さん今日はお泊まりだって。お仕事。然によろしくって。」
それが仕事である事は秋生も理解してはいたが、心の隅で、もしかしたらこの間、断る様な態度を取ってしまったから避けられているのだろうか、などと考えてしまう。
「えぇ〜!りょう、お夕飯も来ないし、ぜんぜん遊べない。つまんないよ。」
「しょうがないでしょ?お仕事が忙しいの!それに秋月さんはお家がちゃんとあるんだから…。」
台風が近くを通るかもと聞いて、停電などに備えて早目に帰宅して夕食を二人で食べた。
「もうお風呂も入るよ?夜に電気消えたら怖いから…。寝間着持っておいで。」
二人でお風呂に入ると、然は秋月と一緒に入った温泉が広くて楽しかったと話してくれる。
「良かったね?」
「うん!……なぁ、秋生。」
「うん?どうしたの?」
「りょうは、おれのお父さんにはならないの?いっしょにここにいたらだめなの?」
ドキン…とした。
「…お父さんが欲しいの?」
「ちがうよ。かんちゃんはいないけどずっといるもん。かんちゃんはおれのお父さんでしょ?」
「…うん。」
「でもねー。りょうは、りょうのお父さんなんだ。べつのお父さん。
りょうね、秋生のこと、ふたりで守ろうねっていってくれたんだ。
おれね?秋生を守ってほしいんだ。」
思わず、涙が出た。
お湯の中に顔を浸けて、誤魔化した。
(然の中に、かんちゃんがいる。優しくて温かい…かんちゃんがいる。)
そう思ったら、かんちゃんが消える事はないんだと思えた。
暫く涙は止まらなくて、然はオロオロして心配してくれた。
いつも暴君な癖に……可笑しくて途中から泣き笑いになった。
お風呂から上がって、着替えをさせながら然に話した。
「秋月さんの今のお仕事が落ち着いたら…然のお父さんに、秋生の旦那さんになってもらえるか聞くね?駄目だったらごめんね?でも、駄目な時は然が悪いんじゃなくて秋生が悪いから。」
黙って聞いていた然は、ポツリと言う。
「秋生、かわいくないから?むねがないから?ぼうりょく女だから?」
吹き出しそうになるのを堪えて、よく考えたら失礼だなと思い、然を抱きしめてくすぐった。
「どう言う意味よ!こら!然。誰が暴力女だって?」
「きゃぁぁぁ〜〜やめてぇ〜。ぎゃはははははっ…きゃ、きゃぁ〜いやぁ〜〜。だめぇ〜おもしろい〜〜。」
戯れて遊んでいたら、窓の外が光った。
二人同時に停止した。
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