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小さな仕事は分かり易いし、任されることが多くて遣り甲斐はある。
初めて独り立ちした仕事はスーパーの広告だった。
二色刷りの広告で、印刷会社とスーパーを往復。
スーパーさんは手慣れた物で、慣れない広告屋のフォローもアドバイスもしてくれる。
二色刷りがカラーへ、カラーから写真入りの物へ…そうやって仕事が大きくなり増えていく。
モデルさんに接触したり、カメラマンさんとお知り合いになり、どんどん仕事が楽しくなった頃、大手広告代理店のチームに入った。
「まぁ、澤井さん、大変かもだけど……。今回は経験と思ってやってみようか?」
うちの社長は以前はその大手広告代理店にいたらしい。
「本当に私で大丈夫でしょうか?」
「ん?大丈夫って?」
社長は50代でまだ若いけど、お父さん、みたいな人だ。
「高卒で大手の人みたいに学歴ないし…英語、分からないし…。」
「担当者が外人で英語しか話せない訳じゃないしね?黙ってたら頭の善し悪しは分からないよ。そういうのは、ボワッと滲み出る物だから…。」
「ボワッと?」
滲み出る物ならばなおの事、駄目じゃないかと考える。
「広告はセンスと閃き。仕事は熱心さと真心。真面目に真摯に向き合えば、ボワッと出てくる物だよ?平気平気。僕なんか東大なのに、全然そんな感じしないでしょ?趣味、昼寝だしねぇ?」
ふふっと、二人で顔を見つめ合って笑ってしまう。
ほんわかとしていて、第一線で活躍していた人とは思えないけど、今でも会社ではここ!という時は頼りにされている存在だ。
秋生が面接を受けた時も、秋生の話を真剣に聞き、泣き、笑い、君、内定!と叫んだ人だ。
尊敬して感謝している人。
その社長が言うなら、頑張ろうと思えた。
初顔合わせを終えて、呼び出されればすぐに大手広告代理店に顔を出す。
打ち合わせを繰り返して、会議、クライアント周り。
常に大手の担当者と一緒に動く。
秋月は他の仕事も同時進行で抱えていて、一緒に動くことは週に一度か二度で、新入社員の高田さんと入社6年の井上さんと動いていた。
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