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結局、その日は一日授業の内容など全く頭に入ってこなかった。
いったいどういうことなのか。
いじめ?いや、確かにクラスで孤立していた雰囲気ではあったが、そんなあからさまないじめなどは無かったと思う。それに何よりどの教師―――担任すらも、このことに一切触れなかった。気付かないなんてことがあるだろうか。
では、転校?自分だけが知らないだけで、何かそういう話があったのだろうか。それにしても突然過ぎやしないか?
ともかく、一人で考えていても埒が明かないと思い、僕は誰かに尋ねてみることにした。しかし、あくまでもさり気なく。及川のことなど、それほど気になっているわけではないのだけど、という体で。
そうなると、まず誰に聞くかというのも重要だ。変にからかわれたりしてもマズい。そう、クラスの中心にいるような連中ではなく、むしろ孤立しがちの、それこそ及川つかさのような。
そうして、僕の放った白羽の矢は田窪という大人しい男子に立った。
帰り際、近くで誰も聞いていないことを確認して、教室を出る間際の彼に話しかける。
「ねえ」
「……なに?」
普段それほど話さない奴に急に声をかけられ、一瞬身構えた田窪の警戒を解くように、僕は笑顔を浮かべながら続ける。
「ああ、いや全然大したことじゃないんだけどさ。あの、今日及川つかさって―――」
「え……」
田窪のハッとする表情を見て、僕は思わずその先を言うのを止めた。
「あ……いや、ごめん。なんでもない」
そう言って足早に彼から遠ざかる。
なんだ?やはり何かおかしい。ただ及川という名前を聞いただけで、あんな反応をするだろうか。あの表情は何かに怯えているようだった。まるで恐ろしいことを聞いたような。
やはり、いじめなのだろうか。もしそうなら、あまり深入りすると矛先が自分に向かってきたりするのかもしれない。
それでも僕は真実を知る方を選び、意を決して、クラスの上位グループに属する久世にも聞くことにした。彼とは中学も一緒で、友人とまでは決して言えないが、僕のようなクラスカースト下位の者でもまだ話せる方だと思った。
彼と仲の良いグループはまだ教室で喋っている。しかし、部活に入っている他の連中と異なり、帰宅部の久世はこの後一人帰路に着くことを僕は知っていた。
そうして、数分後僕の予想通り久世が皆と別れ教室を出るのを見届けると、僕は彼の後を追い、高校を出た。
校門を過ぎた辺りで、少し緊張しながら声をかけようとしたとき、ふと何故かこんなことが前にもあったような気がした。
一瞬、そのことに気が行きそうになったが、頭を振ると僕は久世に声をかけた。
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