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 牧田は煙草を取り出すと、惠に灰皿を要求する。 「俺はそのまま、施設には帰らなかった」 「えっ、そんな事が許されるの」 「許されねぇよ、でもそれは書類上だけの事でな、実際、施設の子供が行方不明になったところで、親が居る訳でもねぇ。警察も、誰も、ちゃんと探したりはしねぇんだよ」 「じゃ、その金城組の組長が、秀さんの親代わりってこと」 「そうだ、金城の親父は、本当にいい極道だ。在日や、俺みたいな居場所のない人間の為に必死で居場所を作ってくれた。極道ってもんが形骸化して行く中、あの親父は最後の極道だったかもしれねぇ。凌ぎが下手な極道だったけどよぉ、それでも、自分が抱える所帯を支える為に、必死で働いてくれていた」 「最後って、今でもヤクザなんて、どこにでも居るじゃないか」 「馬鹿野郎、極道と腐れヤクザは違うんだよ。今のヤクザ者の中に、極道なんて居ねぇ、今のヤクザは商社なんかと変わりねぇ。金になるなら何でもやる外道ばっかりだ」  惠が灰皿を無言で牧田の前に置くと、牧田は遼太の目を見たまま煙草の筒先に火を点け、その煙草を遼太に差し出した。 「遼太、お前は美月のなんだ」  遼太は牧田から受け取った煙草を一度深く吸い込み、その煙を吐き出しなが牧田の目を見る。 「父親、だと、自分では思ってる」 「お前、父親をなめんじゃねーぞ、お前のどこが父親だ、言ってみろ」 「そ、それは」 「いいか遼太、俺も父親を知らねぇから大きな事は言えねぇ、けどよ、俺は金城の親父を見て思った、父親ってのはよ、とにかく、所帯、守る為に働くもんだ。お前、明後日から仕事しろ、俺んとこでな」  そこで惠が話に口を挟む。 「ちょっと待って秀さん、秀さんのトラックって小さい一トンだから、二人も必要ないって何時も言ってたじゃない」 「買ったよ、三トン半の新車降ろして来た」 「えっ、じゃあ、前のトラックはどうしたの」 「あれはハチに譲った。ハチにはあれで仕事をやらせる」 「ハチって・・・誰よ」 「何言ってんだよ、ハチってこいつ、ん、あれ、ハチは」 「だから、ハチって誰よ」 「おいおいおい、俺、こないだのあいつ、一緒に連れて来ただろうよ」 「いやいや、秀さん、ひとりで来たし」 「うそ、マジで、玄関の外に忘れて来た感じ・・・」 「秀さん、ここ、オートロックだし、インターホンの音、消してるし、玄関閉めたら、私の携帯にワン切り入れなきゃ、誰も玄関、開けないわよ」 「や、やべぇ」  牧田は慌てて立ち上がった。 「待って、外、カメラで確かめるから」  惠はインターホンカメラで、室内モニターから外の様子を窺う。 「い・・・いるわよ・・」 「そうか、よかった、で、なにしてる、あいつ」 「しゃがみ込んで、足元らへんに、指で、なんか、書いてる」 「おい、やべーよ、絶対それ、イジケテるやつじゃねーかよ」 「知らないわよ。秀さんが忘れて来るからでしょ!、つか、あの人、あ、あんなに、ハゲてたっけ」 「ばかっ、なんてこと言うんだ、あいつ、滅茶苦茶それ気にしてんだよ、絶対にハゲって言うなよ、薄毛って言え、薄毛って」 「わ、分かった、と、とにかく、迎えに行こう」  牧田の言葉に、全員が腰を上げ、バタバタと玄関に向かう。惠が施錠を開錠するのと同時に牧田が外に出た。 「お、おい、ハチ、な、なにしてんだよ、早く入れよ、ったくよ」 「兄貴・・・」 「な、なんでしょう」 「やっぱ、髪の毛の薄い人間って、存在も薄いんすかね、よく、あるんすよ俺、こういう事」 「そんな、こと、ね、ねーよ、ハチ、お前は、ひ、人より、ち、ちょっとだけ、う、薄いだけだって」 「ねぇねぇ、秀さん」 「な、なんだ、美月」 「ハゲって、なーに」 「みっ美月ちゃーーーーん、な、何を言うんですか、あなたって子はっ」 「兄貴・・・」 「は、はい・・・」 「兄貴、俺、・・・」 「ハチ」 「なんすか、兄貴」 「ド・・・ドンマイ」
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