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「サキ、着替えたか?」 「まだー!」  洗面所の方から元気に響いた返事に顔をほころばせ、私は再び手元にある二つの弁当箱に目を移した。  大きな黒い弁当箱と、小さな“プリキュア”の弁当箱。  冷凍食品のコロッケを詰め込みながら、先ほど仕上げた卵焼きと、ゴボウと人参の金平を詰める。  最後にミックスベジタブルの炒め物で彩りを添えて、私は「よし」と息をついた。  今日は週に二度の「弁当の日」。  他のママさん達の趣向を凝らしたそれには遠く及ばないながらも、腕は少しずつ上がってきていると自負している。 「えー、ゴボウきらい」  いつの間にか後ろに来ていたサキが弁当箱を覗いてぷぅとむくれる。  一昨日はピーマンを見て同じ事を言っていた。  こうして弁当を作るようになってからわかったことだが、サキは本当に好き嫌いが激しい。  妻も苦労したことだろう。 「何でも食べなきゃだめだぞ」 「なんか苦いんだもん。ちーちゃんのお弁当には野菜入ってないよ」 「よそはよそ」  弁当作りは本当に面倒だ。  最初は毎日給食にしてくれればいいのにと何度思ったことか。いや、今も思っている。  だが、悪くはない。  今の生活を始める前は、親子の間のこんな当たり前のやり取りすらなかった。
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