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5月17日(金)
パパが風邪を引いたみたい。昨日の大雨で濡れたまま事務所のソファで眠ってしまったかららしい。
あんなに言ったのに、ベッドでちゃんと寝ない癖が直らない。
がらがら声で可哀想なので、明日行ってあげようと思う。冬に作ったおじやが好評だったから、またやってあげようかな。
サキは実家に預けて行く。たまには会わせないとお父さんが拗ねるからちょうどいいか。
――春先に私が風邪をこじらせた時の事を書いている。
日記に書いてある通り、確かに妻は仮住まいとなる山奥のアパートまで、買い物袋を抱えて来てくれた。
すっかり弱っている私を尻目に、散らかり放題の部屋を魔法のように片付け、溜まった洗濯物をすっかり済ませてしまった。
私が洗うと汗臭さがどうも消えない作業着も、妻が洗うと夕方まで柔軟剤の匂いが続く。
濃い目に味付けされたミソの風味が利いたおじや、美味かったな。
日記には妻の偽り無い気持ちが書いてあると信じたい。最初から私に対する恨みつらみが書き連ねてある事も覚悟していた私は少しだけ胸を撫で下ろしながら、続きに目を通した。
その日の出来事の他、買い物のメモなど流し読みしていた私は、最後に書いてある一文にふと目を止めた。
――さっき、またサキが「ろろろ」と話していた。
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