第一章

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 その後結局、小鳥遊由海は再度眠りにつくまで俺の手首を拘束したままだった。  手汗はベッタリまとわりつき、そして俺の膀胱はギリギリ持ちこたえた。  そしてたっぷり時間をかけてから母親はやってきた。  その間、俺はひたすら待ちぼうけ。  どうにも乗るバスを間違えたらしい。  頼むから本当にしっかりしてくれよ。  おかげでこっちは呑気によだれを垂らしながらイビキをかいている小鳥遊由海を眺めていなくてはならなかったんだぜ。  ……まったく今日は厄日かよ。  これが俺と小鳥遊由海のファーストコンタクト。  本当ならば今日は特に波風立たず普通に転校し、クラスメートに自己紹介をして新顔特有のアウェー感を堪能しつつ、だんだんと朱に染まっていく過程の第一歩を踏みだす始まりの日だったというのに。  ただ、不可抗力によって交流を義務付けられたことで隣人もとい同級生の小鳥遊由海の印象が当初の言葉の通じない危険な生き物から少し不器用でちょっとだけ情緒不安定な少女に改善された。  あれ、改善されたのか?   とにもかくにも。ほら、隣に住む住民が得体のしれない人物じゃあ困るだろう?  話してみれば話せるやつであることがわかったのはいいことだ。  だが、わかったが。それだけ。同じ高校に通う、名前と顔を知っているお隣さんという間柄。  それ以上深くは俺と小鳥遊由海は関わらない。  少なくとも俺はそう思っていた。  クラスも違うようだし。  しかし、そんな心持ちで構えていたのはどうやら俺だけだったようで。周囲の連中はそれを許してはくれなかったのである。  どういうことかって?  それを説明するにはどの部分から話せばいいのやら。  なんと言ってもいろんな人間の思惑が入り混じって錯綜しているせいで非常に混沌とした出来映えとなってやがるからな。  筆舌に尽くしがたいとはこのことである。  困ったもんだ。  だが、そうだな。  もし語るとするならば。とりあえず導入として相応しいところ。  俺が一日遅れの初登校をはたしたその日のことから話すとしようか。
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