ラストノート1

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 アメリカ……。  丁度二ヶ月程前ーー四月の頭頃に――テレビ番組の撮影で、アメリカに行った時の事だろう。時差は十三時間。葵の邪魔になると思って、一度も電話では連絡しなかったけれど、まさかヒート期だとは思わなかった。  そして俺がアメリカに行っていた事は、親しい間柄の人間では葵しか知らない事だった。  つまり、このメモ帳は葵本人のもので凡そ間違いない。  俺は思わず「嘘だろ……」と呟きながら額を抑えた。頭が知恵熱を出したようにぼんやりして、身体の中を通る芯が、ぐにゃりと折れてしまったかのように全身が重く気怠い。  毎日していたメールでのやり取りでは、葵はそんな素振りは一度だってみせる事はなく、上手く行くか不安だと言う俺を宥めてくれていたのに、どうして。  俺はメモ帳をそっと元の位置に戻すと、布団を頭まで被って、小さく体を丸めてきつく目を閉じた。  これは夢だ。  夢でしかない、俺達が終わる訳がない。  あんなメモ帳は知らない。  俺はそう自分に言い聞かせながら、睡魔を渇望した。
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