ラストノート1

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 何だ、これ。  ぱっと目に入って来た一文に、完全に時と思考が止まった。  要と別れる――俺と別れる? 俺と葵が別れる? 悪い冗談にも程がある。  鼻で笑い飛ばしてやりたいのに、あまりにも唐突な文章に身体の筋肉が硬直して、指先一本すら動かない。それなのに、背中にはじんわりと冷たい汗が滲んでいて、頭の天辺からさっと血が引いて行くのを感じた。  動かない身体とは裏腹に、脳内は忙しなくこの簡易的な文章を理解する事に、すでにオーバーヒートしそうだ。  俺は正しく文字を理解できているのだろうか? 読み間違いじゃないだろうか。何度も自身にそう言い聞かせながら、たったの一文を何度も読んでは、打ちのめされる。背後から鈍器で勢い良く殴られる感覚に慣れた頃、俺はようやくそれが今現実に本当にある文章なのだと理解した。  しかし、一体誰がこんな事を?   架空の誰かを想像しながら、俺は汗が滲む指先でページを捲った。
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