あなたへ

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「お邪魔しまーす」  ガチャリと玄関の扉を閉め、靴を脱ぐ。自分の靴を揃えるついでに隣に脱ぎ捨ててあるもう一足の靴も揃える。部屋に入って荷物を置き、ソファーの前へ行って彼の隣、いつもの場所に座ってくつろぐ。 「何飲む?」 「ミルクティーがいいな」  この部屋に住んでいる彼とは大学二年の頃から付き合っていて、もうすぐ二年が経つ。歳は二つ上で、就職もしている。環境が変わってお互い忙しくなったけど、こうやってたまにどちらかの部屋で過ごしている。ふたりで何処かに出掛けるより、私はこの時間の方が好き。  ことり、と柔らかい音を立てて私の目の前にミルクティーが入ったマグカップを置き、彼は隣に座った。彼の目の前に飲み物はない。 「何も飲まないの?」 「今はいいや。後で一口ちょうだい」 「そっか。わかった」  ゆっくりと時間が流れていくような雰囲気の中、ゆるい会話を終える。ミルクティーを一口喉に流し込むと、隣からふわりと苦い匂いが漂ってきた。
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